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堺さん

公開日: : 最終更新日:2016/10/23 宿主として, 旅館 伊賀屋

熊本地震の直後は、被災し、家をなくした人たちが
伊賀屋に長期に滞在してくださった。

熊本県からの要請に応じて紹介していただいたのだが、
どのような対応をすればいいのか、
まったくマニュアルなどもなかったので、
自発的にスタッフがミーティングを開き、意見を出し合った。
そのなかで、料理長が、
「このような状況にいらっしゃる方々の唯一の楽しみは、
やっぱり食べることだと思いますので、
精一杯心を尽くしてがんばります」と言うと、全員、口々に、
「今、自分たちにできる支援は、
滞在される被災者の皆さんに喜んでいただくことだと思って
がんばりましょう」と言っていた。

そのミーティングで、いつものようにあまり意見を言わず、
ニコニコしながらみんなの意見に頷いている女性スタッフがいた。
みんなから「堺さん」と呼ばれ親しまれている彼女は、
15年前に五足のくつのスタッフとして働き始め、
今は、伊賀屋でがんばってくれている。

滞在された被災者の方々もすぐに彼女に打ち解けて
さまざまな相談を「堺さん」にされていたようで、
日一日と親しくなっていくその様は、
見ていて心癒される光景だった。

「堺さん、アイスば買ってきたけん食べんね」とか、
「あんたは、よう働くなあ」などと
親し気に言われることが度々だった。
堺さんも、
「みなさん、それぞれ大変な状況なのに、優しい人ばかりですねえ」
と、よく私に言っていた。

全スタッフが、被災者の方々が一刻でも早く
普通の生活に戻られることを望んでいた。

そして、抽選で仮設住宅に当たったりして、
地震の被害が大きかった益城町や、
南阿蘇村などに帰られる方々も出始めた。

そんなある朝、伊賀屋の玄関で、
「よかったですねえ。こうやって一歩一歩前進あるのみですよね」
と、長く滞在してくださった老夫婦の被災者のお客様に
私が話しかけていると、
「堺さん」は、目を真っ赤にして私にこう言った。

「私は、今回初めてこの仕事がイヤになりました。
お父さんお母さんと別れるのがつらかです」

たしかに「お父さんお母さん」と言った。

そして、とうとう泣き始めた「堺さん」に私が慌てていると、
お客様は、
「堺さん、また落ち着いたら、必ず来るけん、
そがん泣かんちゃよか。ばってん嬉しかなあ。
実の子供でちゃこがん泣いてはくれん。
よか思い出のできたばい」
そう言われる御二方の目も真っ赤になっていた。

 

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石山離宮 五足のくつ オーナー 山﨑 博文
下田温泉一の老舗『旅館 伊賀屋』の六代目として 天草下田温泉に生まれた天草育ちの天草男児。 2002年7月に、九州の西の果て、東シナ海を見渡す山に 全室露天風呂付き離れの温泉旅館『石山離宮 五足のくつ』をオープン。 趣味は散歩と温泉と水泳。旅行家としての一面も持つ。
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