*

サンダカン八番娼館 Ⅲ

公開日: : 映画・本

その日、天草第一映劇は、とても混んでいた。
地元出身の小山薫堂さんがアカデミー脚本賞を受賞した
「おくりびと」上映以来の混みようであった。

映画館に訪れるだれもが、
「いつもサンダカン八番娼館ば上映すれば、
お客さんも入らすとじゃなかと」
と、主人の柿久さんに冗談まじりで言うのだった。

天草市が主催するワンコインシネマデイという
500円で映画鑑賞ができる企画があるのだが、
その日は、市民のリクエストから
「サンダカン八番娼館 望郷」が選ばれていた。

やはり、45年ほど前とはいえ、
天草がロケ地になっているということもあって、
長らく映画を観る機会がなかったような方々も多く足を運ばれたようだ。

上映が始まると、あちらこちらから、あれはどこだとか、
ヒソヒソ話す声が聞こえてくる。

興味深かったのは、笑うシーンである。

きっとほかの地域、
特に都会の映画館ではまず笑いが起きるようなシーンではないところで
皆、腹を抱えて笑っているのだ。

たとえば、﨑津の元からゆきさんのオサキを演じる田中絹代が、
ごはんを大盛りによそおった茶碗を左手に持ち、
鍋に入った芋を直接大きく口を開けて食べるシーンで
皆、ドッと笑う。
さらにごはんをこれでもか、とかきこむと、爆笑が起きるのである。

他にも、押し入れから布団を投げるようにして敷くシーンや、
近所のあばさんが、トロ箱に入った生のイワシを手づかみにして、
その腹に指を入れてさばくシーンなど、
天草以外の地域の人にとって何気ないシーンで捧腹絶倒するのである。

これは、まず熊井啓監督のリアリズムによるところがある。

天草の当時の人たちの生活習慣を徹底的に再現し、
演出していること。

そして、天草独自の感受性は、
それを見たときになぜかおかしく、笑いになるのである。

この日、一緒に映画を観た方々が、
当時、自分の周りにいた親、祖父母たちがこういうふうに生活していたなあ、
というところで共感が起きると、ドッ、と笑っているのである。
自分たちしかやらないはずの習慣や行動を
他人がやっているところを目の当たりにすると、
笑いで反応するのが天草人のひとつの特色である。

他にも、こんなシーンがあった。

ボルネオ中のからゆきさんに尊敬されていた、
元からゆきさんが臨終の床にいる。
その彼女がそれを見守る数人のからゆきさんのなかから一人を指名して、
棚のなかから袋を持ってこいと言う。
そして、こう言う。
「私は、この島に来て以来、お客をとったときは、
お金をもらわず、指輪や、宝石をもらってきた。
お金は使えば消える。だが、宝石は残る。
私の人生の辛さがこれなのじゃ」
と、言って、袋のなかから瑠璃色に煌めく宝石がたくさんこぼれだす。

そこで大笑いが起きた。
通常、ここは、涙があふれるシーンのはずだ。
なのに、なぜ。

実は、天草の人たちは、自分が予測した以上の大きさに遭遇したとき、
笑いで反応するのである。
このシーンにおいても、「こんなにたくさんの財宝が!」
目の前に映し出されているということに対する反応なのである。
予想外の大きさ、素晴らしさに遭遇したときに天草人は、
笑うことで心を整える、ということかもしれない。

 

サンダカン3

天草市民シアターとは市民のリクエストによって上映作品が決まり、しかも1コイン(500円)で見られる。観光客にも人気だそうだ。ずっと見たかった名画、もう一度見たい名画が上映されている。よかったら、お立ち寄りください!

 

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石山離宮 五足のくつ オーナー 山﨑 博文
下田温泉一の老舗『旅館 伊賀屋』の六代目として 天草下田温泉に生まれた天草育ちの天草男児。 2002年7月に、九州の西の果て、東シナ海を見渡す山に 全室露天風呂付き離れの温泉旅館『石山離宮 五足のくつ』をオープン。 趣味は散歩と温泉と水泳。旅行家としての一面も持つ。
石山離宮 五足のくつ オーナー 山﨑 博文

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