*

夏休みの家族旅行

五足のくつがオープンした15年前は、
よくお客様と酒を飲み、それが仕事でもあると思っていたが、
オープン3周年を迎えたころに、
それは仕事どころかお客様にとっては迷惑であるということに気付き、
以来、夕方には旅館伊賀屋の当直室に籠り、
ひとりチビチビと焼酎のお湯割りを飲むようになった。

ところが、である。

五足のくつについ先月、ご家族でお泊りいただき、
さらにこの正月のご予約までいただいているA様が伊賀屋に何日か滞在されることとなり、
その伊賀屋のお部屋に挨拶に伺うと、私の両手を取られ、
「今回は、私ひとりで泊まりますから、いっしょに飲みましょう!」
と言われた。
最高にうれしかった。

宿の主人と、そのお客様とのつきあいというお互いの立場から推しても、
A様はシャイな方であるということがわかる。
そのA様に手を取られ、飲みましょうと言われると、
飲み友達が少ない私はうれしくてたまらなかったのである。

伊賀屋の当直室で焼酎を飲みながら、
さまざまなことを話したが、私は飲みすぎてほとんど忘れた。
翌日の夜は、支配人の中川も深夜加わったが、
下戸で仕事一筋の中川がA様との会話に熱中し、
なんとこの酔っ払いの私が2時半を指す時計を見ながら、
「もうそろそろ寝ましょう」と二人に言ったのである!

その翌日は、本渡の居酒屋でA様と二人で飲んだ。

A様はビールのジョッキを傾けながら、
「私は、天草を運転していると
前世は天草人だったかもしれないと思うことがよくあります。
それくらい天草とはしっくりくるんです。
特に今回、天草の季節の移り変わり、特にこの夏の風情は、いいですねえ。
幼い頃の夏休みがリアルに思い起こされます」とおっしゃる。

天草人としてはうれしいかぎりである。

次に、A様は焼酎のロックに替えると、
「旅行っていいですよねえ。
私の母は厳しい人でしたが、旅行のときだけは優しくなってくれました」

だいぶ酔ってきた私はA様のこの話に触発されて、
小学生の頃の夏休みの家族旅行を思い起こしていた。

世間様が休まれるときが忙しい旅館を生業としている山﨑家にとって
家族旅行などありえなかったが、
夏休みも残り数日となった暇な時期に
旅行に連れて行ってもらうことが何度かあった。
計画の段階では二泊なのだが、父も母も一泊すると、
伊賀屋のことが心配になり、やっぱり帰ろうというのが恒例であった。
行先は、三井グリーンランドや、別府温泉などの近場であったが、
普段は、旅館の厨房にある冷蔵庫のなかのコーラやジュースを
私たち兄弟が盗み飲んだりすると烈火のごとく怒っていた母が、
旅行のときだけは、なんでも買い与えてくれた。
母の財布が緩むことが私たち兄弟へのせめてもの愛情の表現に思えて、
私は幸せを感じた。
普段、子どものことにはまったく気を遣わない母が宿に頼んで
用意してくれていた「お子様ランチ」が鮮やかな色彩で私たち兄弟の目に映った。

ある時、宿での夕食が終わると、両親は、
下田温泉出身の人がその街で新しく開店させたバーに行くと言って出て行った。
残された姉と幼い弟と、木造の小さな二階建ての旅館の風呂に入り、
部屋に戻ると、弟がチンチン裸のまま窓枠に乗って、
「わあああああああ」と叫び始めた。
ちょうどそのとき、忘れ物を取りに戻ってきた母がその弟の姿に気付いて、
弟が振り向かないように静かに小走りにして弟を抱きかかえ、
私と姉にこれまで聞いたことのない大声で怒鳴ったのだ。

「ちょっとでも今、剛文が足を踏み外したら、
目の前で死んどったぞ!!ちゃんと見とかんか!!」

弟は、幼い胸では受け止められないくらいの母の愛情と、
それによる喜びと安心感と満足を体をもって表現したのだろう、
と私は小学生なりに理解していた。
それほどに旅行先での母は、旅館伊賀屋の女将ではなく、
私たちの「お母さん」になってくれていた。
あの母の温もりが懐かしい。

「旅行先ではその人本来にもどることができるんでしょうねえ」
すでに酩酊状態となった私は、そう呟いていた、、ような気がする。

 

 

IMG_0916

↑小学生のころ三井グリーンランドに連れていってもらった。
左上からいとこ、姉、弟、右が母。
父親が撮影した写真だろう、しかし、一緒にいったはずの私がいない。
なぜだろう?

 

IMG_0915

↑三井グリーンランドのかぶと虫の乗り物の前で弟と姉

 

IMG_0914

↑このときは鬼池港から口之津港へフェリーで渡り、
島原経由で家族旅行を楽しんだ

 

 

 

 

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石山離宮 五足のくつ オーナー 山﨑 博文
下田温泉一の老舗『旅館 伊賀屋』の六代目として 天草下田温泉に生まれた天草育ちの天草男児。 2002年7月に、九州の西の果て、東シナ海を見渡す山に 全室露天風呂付き離れの温泉旅館『石山離宮 五足のくつ』をオープン。 趣味は散歩と温泉と水泳。旅行家としての一面も持つ。
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