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初めての嘘

公開日: : 最終更新日:2014/12/20 自身のこと

45年前の春、四月のできごとだった。

 

 私は、小学校に入学したてでなにもかもが新鮮に見えていた。
初めて買ってもらったランドセル、
筆入れのなかには、真新しい鉛筆や消しゴム、
水筒に描いてあったひょっこりひょうたん島のイラストなどは
今でもはっきり覚えている。
私の人生で一番無邪気な時代だった。

 

 そしてその日、私は初めての給食当番だった。
白いエプロンと三角布をして、給食室へ行った。
私は、最後にパンを運ぶ担当だった。
50センチ四方くらいの大きさの木の箱に
児童数26人分プラス先生の27個のパンが入っていた。

 

 それから間もなく事件は起きた。
階段を踏み外して
あっ、とパンを土間の上に落としてばらまいてしまったのだ。

 

 考える隙もなく、急いで拾い集めて木箱に入れた。
小学一年生だ、並べて置くなんて考えない。
教室では先生が木箱の中を見るなり、
「落としたでしょ」と言われた。
高橋先生という美人の先生だった。
「いいえ」と私は下を向いて答えると、
皆と一緒に「いただきます」と小声で言って給食を食べ始めた。

 みんなおいしそうにパンを食べている。

もう本当のことを言う勇気などなかった。
みんな、自分が土間の上に落としたパンを食べている、
おなかが痛くなったら、自分のせいだ、どうしよう、
うそつきは泥棒のはじまりだから、
自分は悪い人になるのだろうか…
不安と恐怖が襲って来た。

 

初めて嘘をついた。

 

 先週の梅雨の晴れ間の朝、
娘の給食当番のエプロンが物干し台に干してあるのを眺めながら、
この話をカミングアウトしようと決めた。

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*****五足のくつから海を見ると、梅雨空の向こうが輝いていた。

神様は見ている、そんな気がした。

 

 

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石山離宮 五足のくつ オーナー 山﨑 博文
下田温泉一の老舗『旅館 伊賀屋』の六代目として 天草下田温泉に生まれた天草育ちの天草男児。 2002年7月に、九州の西の果て、東シナ海を見渡す山に 全室露天風呂付き離れの温泉旅館『石山離宮 五足のくつ』をオープン。 趣味は散歩と温泉と水泳。旅行家としての一面も持つ。
石山離宮 五足のくつ オーナー 山﨑 博文

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