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雨の思い出

公開日: : 最終更新日:2014/12/20 石山離宮 五足のくつ, 自身のこと

今日は、朝から雨が降っている。
わたしは敷地内を見て回ろうと、事務所のドアをそっと開けた。
と同時に、雨の日特有のにおいと湿気が身体を包んだ。
ひんやりとした空気に思わず、深呼吸してしまう。
五足のくつの客室の一部は昔の天草の民家をイメージした造りになっている。
屋根には雨どいがなく、
屋根を滑り落ちるリズミカルな雨音を楽しむことができる。
また、窓越しにはその雨の美しさを眺めることができる。
雨の日は、見慣れた景色がいつもと違うものに変わる。
新緑の木々は雨に濡れて一層色濃くなり、しっとりと濡れた石は重厚感を増す。
森にとって雨は、まさに恵みだ。
樹木も草も石も、すべて生き返っていく。美しさを増していく。
ふと鳴き出した一匹のカエルの声が合図だったように、
たちまち周囲はカエルの大合唱に包まれた。

「神様が雨に姿を変えて、下りてきたんだよ」
祖母の言葉がよみがえってきた。
子どもの頃、雨が降って外で遊べないと、わたしは部屋の中で過ごした。
姉弟と絵を描いたり、本を読んだり、
母親や祖母から昔話を聞いたりして遊んでいた。
ある雨の日、祖母は、雨は姿を変えた神様だ、と話してくれた。
それを聞いた子どものわたしは、びっくりした。
「どうして、神様が下りてきたの?」
「花や木の色を塗り替えにきたんだよ。
雨の日はいつもより濃い色になっているだろう?」
祖母はそう言って、神様の雨の日の仕事について話してくれた。
色を塗り替えるだけでなく、元気にしてあげること。
田んぼや畑に下りて、おいしいお米や野菜を作る手伝いをすること。
川や海に下りて、魚たちの棲む場所が涸れてしまわないようにすること。
祖母から聞いたそんな話を思い出した。

また、カエルの合唱が始まり、わたしは我にかえった。
記憶の彼方にあったそんな話を思い出したのも、雨になった神様の仕業だろうか。
雨の日の五足のくつには、晴れの日とは違う自然の美しさがある。
だからわたしは雨の日は必ず敷地内を歩いて回る。
そして雨の精気を身体いっぱいに吸い込むのだ。

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石山離宮 五足のくつ オーナー 山﨑 博文
下田温泉一の老舗『旅館 伊賀屋』の六代目として 天草下田温泉に生まれた天草育ちの天草男児。 2002年7月に、九州の西の果て、東シナ海を見渡す山に 全室露天風呂付き離れの温泉旅館『石山離宮 五足のくつ』をオープン。 趣味は散歩と温泉と水泳。旅行家としての一面も持つ。
石山離宮 五足のくつ オーナー 山﨑 博文

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