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歯ぎしり

公開日: : 最終更新日:2014/12/20 自身のこと

僕は、小学校3年生の頃から不眠症に悩まされた。
今ではこういうと人に笑われるのだが、実は神経質な少年だったのだ。
夜中、父のいびきと歯ぎしりが家じゅうに響き始めると、
僕は布団から出て、温泉街を散歩した。
当時は団体旅行が多く、下駄の音を響かせながら酔客が往来していた。

ある夜のこと、浴衣姿のおじさんたちが
「おい、ラーメン屋はないか!」と聞いてきた。
「おでん屋さんなら知ってますよ」
と答えると、連れて行けという。
仕方なく、古くから近所のおばちゃんがやっている
おでん屋さんまで案内した。
「おまえも食っていけ!ジュースも飲め!」
と言われるままに席についた。
知り合いの店のおばちゃんは、目くばせをして、
「坊や、ありがとう。もう帰ってもいいよ」
と言い、僕が席を立とうとした時、ますます勢いづいてきたおじさんたちが、
「カラオケはないのか!」と叫んだ。
店のおばちゃんは困り果てた表情だった。
「僕が持ってきます!」
僕は、伊賀屋の風呂へ行き、桶をふたつ持っておでん屋へ急いだ。
走りながら、おじさんたち、こんな桶をどうするのだろう、と思った。
のれんをくぐって、
「空の桶を持ってきましたよ」というと、おじさんたちのなかのひとりが、
「お見事!お見事!」
と言って、桶を叩きながら楽しそうに歌いはじめた。

らーらららー らら ららららーら
高原列車は ららららら 行くよ

みんな楽しそうだった。
僕もお酒を飲めるようになれば、いびきと歯ぎしりを響かせながら
豪快に眠れるようになるだろう、と希望を持った。

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石山離宮 五足のくつ オーナー 山﨑 博文
下田温泉一の老舗『旅館 伊賀屋』の六代目として 天草下田温泉に生まれた天草育ちの天草男児。 2002年7月に、九州の西の果て、東シナ海を見渡す山に 全室露天風呂付き離れの温泉旅館『石山離宮 五足のくつ』をオープン。 趣味は散歩と温泉と水泳。旅行家としての一面も持つ。
石山離宮 五足のくつ オーナー 山﨑 博文

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