天草・下田温泉の旅館「五足のくつ」は、九州は熊本にあり、離れの各客室に自家源泉・かけ流しの露天風呂が付く。天草四郎ゆかりの地。

夏の夢
山道を登っていくと、海が見える丘の上に出る。
故郷にUターンした友人から遊びにこないか、と誘われた私は、週末を利用して出掛けた。
電車を乗り継いで2時間ほど。
駅からは、手紙に同封してあった手書きの地図を見ながら進んだ。
丘を登ると、目の前には絶景の海が広がっている。空は青く澄んで、
夏の終わりながら涼しい秋の風が感じられる。

  「お待ちしていました」
の声に振り向くと、友人の細君が立っていた。相変わらず笑顔が優しい人だ。
「お招きありがとう。お変わりありませんか」
「ええ」
彼女に案内された家は、どっしりとした石造りの館。重厚な雰囲気が漂う。
「やあ。いらっしゃい」
なつかしい顔も迎えてくれる。
「先に、風呂にでも入ってくれ」
  細君に案内された風呂は、岩風呂風の造りになっており、
開いた小窓からは涼しい風が入ってくる。
少しぬるめの湯は、2時間以上の旅の疲れを癒してくれた。
  風呂上がりは友人との会話に花が咲いた。細君が酒や食事を運んでくれる。
屋敷のこと、風呂のことから話が始まり、学生時代のことまで飛び出した。
  細君の料理は、見た目も味も素晴らしかった。
上品な陶器の器に、海の幸、山 の幸が盛られ、
素材の良さが感じられるよう薄く味つけしてある。
酒もすすみ、そのうち、細君も会話に加わった。
「そういえば、お前、自分の店を持ちたいって言ってたよなあ」
友人の夢を思い出した。
「ああ、ここに出そうと思ってね。 準備中だよ」
友人は、うれしそうに言った。
「ここから見る、夕日がいいんだよ。 明日は、海に沈む夕日を見せるよ」
「いいね。楽しみだ」
「そういえば、大学の頃…」

  「…社長?お電話がかかってますよ」
目が覚めた。そよそよと吹きぬける風、部屋を オレンジ色に染める夕日。
設計図を見ながら眠っていたらしい。
「ああ、ごめん」
受話器を受け取り、電話に出た。
  「おお。元気か?」
驚いた。今、見ていた夢に出てきた友人だった。
「ああ、 久しぶりだな」
「ちょっといい知らせがあってな…」
さっきの夢は、もしかして予知夢になるかもしれない。