天草・下田温泉の旅館「五足のくつ」は、九州は熊本にあり、離れの各客室に自家源泉・かけ流しの露天風呂が付く。天草四郎ゆかりの地。

鎮魂歌
海から吹く潮風が、柔らかくなった。
春はもうすぐ。ここ下田の海岸には、今、薮椿が咲き乱れている。
日々海を眺めて暮らしていても、同じ海の姿を見たことがない。
「海の姿は人間の姿と一緒だな」と、つくづく思う。

400年前、この海で育ち、
この海を渡り異国へと旅立った、天草の先達たちがいた。
「天正遣欧使節団」と呼ばれる少年たちだ。
日本人として初めて欧州の地を踏み、
ローマ法王に謁見した4人の少年たちだった。
彼らは「天草コレジョ」と呼ばれる神学校で、
最高の学問を受けたエリート。
8年をかけて欧州を巡り、その後天草に戻った。
しかし、彼らの帰国は遅過ぎた。
帰国した時にはすでにキリスト教は禁教とされ、
彼らはその後、苦難の道を歩んだ。
ある人は神を信じる強い意志により処刑され、ある人は国を追われた。
そしてある人は宗教を捨てたという。

薮椿の花が風に吹かれて、「ぽとり」と落ちた。
真っ赤な花は、まぶしいくらいに鮮やかだ。
昔、椿は、“首が落ちる”という理由で、
武士にはあまり好まれなかったという。
彼らは、この薮椿を見ただろうか。

久しぶりに崖から降りて、浜辺を歩いた。
無骨な岩肌とごつごつした石の歩きにくい浜辺である。
この場所から、沈む夕日を眺める時いつも、
4人の少年のことを思い出す。
ぎらぎらと輝く太陽。そしてその太陽を呑み込む藍の海。
毎日繰り返されるこの情景は、
彼らへの“鎮魂歌”だと、・・私は思う。