天草・下田温泉の旅館「五足のくつ」は、九州は熊本にあり、離れの各客室に自家源泉・かけ流しの露天風呂が付く。天草四郎ゆかりの地。

彼女のかたち
五足のくつの玄関に飾っているしめ縄は、
近くに住むおばあちゃんの手作りの品だ。
幼いころから面倒をみてもらっているので、もう数十年の付き合いになる。
毎年、年末になるとしめ縄を届けてくれ、
新しい年を迎えるのに欠かせないものとなっている。
他地域では、年始しか飾らないしめ縄を天草では、一年中飾っている。
その昔、隠れてキリスト教を信仰していたこの地方の人々が、
表面上は、自分たちは神道であると示すために飾りはじめたのが始まりといわれており、
それが今でも習慣として残っているのだ。

今年もおばあちゃんは、新しいしめ縄を届けてくれた。
となりには、若い女性が並んでいる。
「うちの孫だよ」
はじめまして、と彼女は笑顔で挨拶をした。
「お孫さんが作ったそうですよ。おしゃれでしょう?」
スタッフが、自分用に買ったというしめ縄を見せてくれた。
形はしめ縄なのだが、鮮やかな色のリボンや和紙、
生花などが使われたかわいらしいものだった。
「これだったらお部屋でもいいと思うんです。
私はフラワーアレンジを勉強したんですが、それを天草で生かせないかと思って」
お孫さんは言う。
しめ縄という、古くからの日本の文化の中で形式づけられてきたものに
自分らしさを加えた、新しいものがそこにあった。

「頼りになるお孫さんだね」
「そうだね。私の時代には考えもつかないようなしめ縄だけどな」
おばあちゃんは、口ではそういいながら、うれしそうに笑った。
となりでお孫さんも笑顔を見せている。
その笑顔がそっくりだったのがとてもほほえましい。
ふと、C棟に、お孫さんのしめ縄を飾ってみようか。
そんなことを思った。