天草・下田温泉の旅館「五足のくつ」は、九州は熊本にあり、離れの各客室に自家源泉・かけ流しの露天風呂が付く。天草四郎ゆかりの地。

広がる世界
上海は天草の隣りに位置する。
上海へは何度か旅をした。
今回は、上海から100キロほど離れた蘇州へ足をのばしてみることにした。

町の中に川が流れているというよりは、川の中に町があるといってもいいほど、
水路が発達したこの町は、「水の都」として知られている。
舟に揺られて、周囲に立ち並ぶ家々を眺めていると
中国という広大な土地を流れる川の一部になったような
ゆったりとした気分になった。

君がみ胸に 抱かれて聞くは
夢の船唄 鳥の唄
水の蘇州の 花散る春を
惜しむか柳が すすり泣く

聞き覚えのある曲に、思わず隣を見ると、
中国人と思しき女性が恥ずかしそうにこちらを見た。
それが、日本に住んでいたことがあるという彼女と話すきっかけだった。
日本人であるわたしを見て、ふとこの歌を口ずさんでしまったのだという。
彼女は、日本で歴史ある建物といわれる名所旧跡を数多く見たが、
どれもが新しい時代のもののように思えた、と言った。
わたしが、法隆寺は1400年もの歴史がある、と言うと、
蘇州は紀元前から栄えてきたのです、と返されてしまった。
圧倒的な歴史の長さ、深さに、はっとした。
日本であれば、重要文化財に指定されるものが、この土地にはあちこちにある。
日本と中国では、尺度が違うのだ。
尺度が違えば、同じ物事でも捉え方が変わってくる。
彼女と話しているうちに、自分の世界観が広がった気がした。
そんなわたしの様子を見て、彼女は微笑み、また歌い始めた。

翌日は、蘇州の庭園を見て回った。
古代、中国の豪族たちは余生をこの地で送ることを夢見た。
かつて上海へ渡った天草の人々も、この庭園を歩いたに違いない。
さまざまな人々が織り成す深い歴史。
そんな、亡き人々の気持ちに思いを馳せ、その当時の町の様子などを考えてみた。
旅がさらに楽しくなった。