天草・下田温泉の旅館「五足のくつ」は、九州は熊本にあり、離れの各客室に自家源泉・かけ流しの露天風呂が付く。天草四郎ゆかりの地。

受け継がれるもの
石畳の長い廊下、アーチ型の高い天井、そこに差し込む光。
2005年10月にオープンしたVillaCの「天正」は
まるで教会のようだ、とよく言われる。
「なぜ、こういう造りにしたのですか?」
お客様から問われると、
天草を表現したかったのですよ、と答えるが、
一言では言い表せない想いがある。
「天正」の天井は、天草の大工が職人の意地と技で造りあげたものなのだ。

天草はキリスト教との関係が深く、
島内には、崎津天主堂、大江天主堂という世界に誇るべき教会がある。
VillaCの設計図を見て、これらの教会からインスピレーションを得た大工たちが、
「天草を表現する宿を造るなら木造でやるべきだ」
「当時の天草の大工にできて、俺たちにできないことはない」
と申し出たことで、
当初は鉄を使用するはずだった天井の球面部分を
木材を使ってすべて手作業で行うことになったのだ。
現在の工法だと、R面は軽天工事といって鉄を使う工法が主流。
鉄だと、微妙なR面も設計図通りに簡単に曲げることができる。
それを敢えてノミとカンナを使い、大工の手で完成させた。
それは手間と苦労、何より熱意が必要な作業だった。

崎津天主堂や大江天主堂を建てたのは、鉄川与助という明治生まれの棟梁だ。
若いころから、その腕の確かさで知られ、
生涯で40ヶ所以上の教会、天主堂を建設した。
彼は、勉強熱心で、常に新しいことに挑戦する自由な心を持っており、
同じ形の教会はひとつとしてなかった。
五足のくつを建ててくれた大工たちから、そんな申し出があったとき、
この偉人と同じものを感じた。
鉄川与助という人物の建築への情熱と
天草の大工たちの想いが重なって見えたのだ。

東シナ海に沈む夕日が眺められる、天正のオープンカフェ。
そこで取材をしていた女性ライターは、
「なぜだか敬虔な気持ちになりますね」と言った。
十字架をモチーフにした柵が夕日に照らされて、テラスに影を落としている。
数々の十字が浮かび上がるさまは、
隠れてキリスト教を信仰していた時代を彷彿とさせる。
だから、彼女はそんな気持ちになったのだろうか。

「五足のくつには、天草の歴史の断片が生きている」
お客様をはじめ、訪れる人々からこのような声を聞くたびに、
天草に生まれてよかった、と思う。
それは、わたしの中に「天草」が受け継がれていることの証だからだ。