天草・下田温泉の旅館「五足のくつ」は、九州は熊本にあり、離れの各客室に自家源泉・かけ流しの露天風呂が付く。天草四郎ゆかりの地。

イルカの家族
東京から友人一家がやってきた。
奥さんにやんちゃ盛りの男の子、赤ちゃんを連れている。
そこで、私の家族とともにイルカウォッチングへ行くことにした。

船の上でも赤ちゃんは大人気だ。
私の娘たちも、ほっぺを触ったり、足をつついたりして赤ちゃんを囲んでいる。
一方、男の子は落ち着かない様子で、友人が注意する声も聞こえないようだ。
「娘が生まれてからずっとああなんだよ」
「母親を妹にとられたっていうやつか?」
友人はため息まじりにうなずいた。

「坊主、こっちに来い!」
船を操っていた漁師が男の子を呼んだ。
深いしわが刻まれた穏やかな笑顔の漁師に、男の子はおそるおそる近寄った。
「イルカの話をしてやろう」
イルカの生態について、天草の海について…。
次第に男の子は、漁師の話に引き込まれていく。
「どうしてイルカは船が来ても逃げないの?」
「おじさんたちは、イルカと昔から仲良しだからな」
通常、イルカの群れは漁師に嫌われる。
漁場を荒らし、網をやぶり、漁の邪魔をするからだ。
しかし、天草の漁師は昔からイルカと共存する漁をしてきた。
イルカのかからない小さな網を使い、イルカが好む小魚は獲らず
タイやカレイを一本釣りで仕留め、アワビやウニの素潜り漁を行ってきた。
だからイルカたちは漁船が来ると近づいてきて愛らしい姿を見せてくれるのだ。

「あ、跳ねたよ。イルカだ」
子どもたちが一斉に大海原を見る。
指を差した方向に、イルカの群れがいた。
全身全霊で潮風を受け、深呼吸しながら、イルカの群れを眺めていると、
気持ちが穏やかになってくるのを感じる。
「小さいのもいるよ。お母さんイルカと泳いでいる!」
春先から初夏にかけてイルカは出産シーズンを迎え、
この時期には親子連れのイルカを見ることができる。
「坊主、あそこを見てみろ。赤ちゃんイルカの横にもう一頭小さいのがいるぞ」
それを見た男の子の目がさらに輝く。
「あ、ぼくと妹みたい。うちと同じ4人家族だね」
きらきらと輝く海でイルカの家族は、いつまでも寄り添って泳いでいた。