天草・下田温泉の旅館「五足のくつ」は、九州は熊本にあり、離れの各客室に自家源泉・かけ流しの露天風呂が付く。天草四郎ゆかりの地。

「五足の靴」から100年
南アフリカへ行ったときのことだ。
オーストラリアからの旅行者がやけに多い。
途中、ロンドンでマラリアの薬をもらい、
アムステルダム経由でヨハネスブルグに到着した私の頭の中が
平面的になっていたから分からなかったのだろう。
実は両国は南極をまたいでとても近いのだ。
地球は丸い、と実感した。
そして私は、地球という大きさで考えれば、
天草は最果ての地にあると思う必要はない。
逆にアジアに開かれている、と考えるようになった。

これは旅の効能だ。
旅とは、訪れた土地の人々や風景、モノなどに触発されて
自己を見つめ直す作業である。

今からちょうど100年前、
天草を訪れた五人の詩人たちは天草を歩いて旅し、
その旅にエキゾチックなヨーロッパ文化を求めていた。
彼らにとって、日本の中のヨーロッパは天草であった。
宿の主人や島の人々、ガル二エ神父など
陽気で人なつっこい天草人たちとの出会いと、その豊穣な異国情緒は、
彼らの心を内面へと向かわせ、
日本の耽美派文学の祖たらしめた。

時代はめぐり、また日本人は「旅」をしたいと思っている。
かつて若き詩人たちをインスパイアした天草。
この島の自然や歴史や風土は、訪れる人々にインスピレーションを授ける。
100年前、彼らが歩いた道「五足の靴文学遊歩道」を歩いた。
木々のざわめき、吹き抜ける風。
鳥の声、海の香り、木々の隙間から見える東シナ海…。
ここは100年前から何も変わっていないような気がした。
「熊本日日新聞社 2007年3月24日付きょうの発言」掲載